働き損って、本当にあるの?——扶養内パートの私が考えたこと
給与明細を開いて、ため息をついたことがある。
たくさん働いた月のはずなのに、思ったより手取りが増えていない。あるいは、周りから「あんまり働くと損だよ」と言われて、その“損”がどこから始まるのか、正直よくわからないまま、なんとなくシフトをセーブしている。
——もし、あなたがそんなふうにモヤモヤしているなら、この記事はあなたのために書いています。
先に、少しだけ自己紹介を。私は扶養の範囲内で働くパート主婦で、仕事柄、こういう社会保険や税金の制度に触れる機会があります。つまり、制度を“知っている側”のはずなんです。
でも、正直に告白します。自分のこととなると、私も毎年、電卓を叩きながら迷っています。
しかも、ここ最近はもっとややこしい。というのも、「働き損」の前提になっていた制度そのものが、今まさに、大きく変わっている最中だからです。
そもそも「壁」って、なんでこんなに種類があるの
まず、多くの人がモヤモヤする最大の理由から。それは、「壁」が一つじゃないからです。
103万、106万、130万、150万……検索するたびに違う数字が出てきて、しかも記事によって「これが一番大事」と言っていることが違う。混乱して当たり前だと思います。
私なりに、いちばんシンプルに整理すると、壁は大きく二種類に分けられます。
ひとつは税金の壁。自分に所得税や住民税がかかり始めたり、配偶者(多くの場合は夫)の税金の控除がなくなったりするライン。
もうひとつは社会保険の壁。自分が配偶者の社会保険の扶養から外れて、自分で健康保険や年金の保険料を払うことになるライン。
この二つは、まったく別の制度です。管轄する役所も違えば、金額のラインも違う。だから「壁が複数ある」ように見える。ここを分けて考えるだけで、少し霧が晴れる気がしています。
そして、いわゆる「働き損」——つまり、収入を増やしたのに手取りがかえって減る現象——が起きやすいと言われてきたのは、主に社会保険の壁のほうです。税金の壁は、超えても超えた分に少し税がかかるだけで、手取りが逆転することは基本的にありません。でも社会保険は、ある地点でまとまった保険料が発生するので、「あれ、働いたのに減った」が起こり得る。ここが、多くの人が恐れているポイントです。
ひとつ、見落とされがちなことを付け足すと——配偶者の勤務先に**家族手当(配偶者手当)**がある場合は、その支給条件も確認しておくと安心です。会社によっては、妻の年収が一定額を超えると手当がまるごと支給されなくなることがあり、これが実質的な“隠れた壁”になっている家庭もあります。基準は会社によって本当にまちまちなので、就業規則や給与規程を一度見てみるのがおすすめです。
しかも今、その「壁」が動いている
ここからが、私がいちばんお伝えしたいことです。
実は2025年から2026年にかけて、この「壁」たちが、かなり大きく変わりました。長年語られてきた「働き損」の常識が、通用しなくなりつつあるんです。
たとえば、ずっと有名だった**「103万円の壁」**。所得税がかかり始めるラインとして知られてきましたが、この非課税のラインが大幅に引き上げられました。国税庁の資料では、給与収入178万円が新しい所得税の基準として示されています(令和8年分から適用)。長年「103万」と言われ続けてきたので、この数字を見たとき、実務でも「本当に変わるんだ」と実感しました。
社会保険のほうも動いています。**「106万円の壁」**と呼ばれてきた、賃金による社会保険の加入要件は、2026年10月に撤廃される予定とされています(厚生労働省)。ただし撤廃されるのは“賃金”の基準で、働く時間(週20時間)による加入の基準は残るそうです。つまり「壁が消えてなんでも自由」ではなく、「壁のかたちが変わる」に近い話のようです。
そして**「130万円の壁」**は、2026年4月から判定の仕方が変わりました。これまでは実際の収入や見込みで判断されていたのが、労働契約書に書かれた内容をもとに判定される形になった、というのが厚生労働省の説明です。つまり、繁忙期にたまたま残業が増えて一時的に130万円を超えても、契約上の年収が基準未満なら、すぐに扶養から外れるわけではなくなった、ということのようです。
……と、ここまで書いてきて、あらためて思うんです。
**ややこしい。**本当に、ややこしい。
制度に触れる仕事をしている私でさえ、「これは去年までとどう違うんだっけ」と資料を何度も確認します。数字も、施行の時期も、対象になる人の条件も、少しずつ違う。全部を完璧に把握して、自分の家計に当てはめて最適解を出す——正直、そんなの、簡単にできることじゃないと思います。
だから、もしあなたが今「よくわからない」と感じているなら、それはあなたのせいじゃない。制度が、それくらい複雑で、しかも動いている最中なんです。
私が、数字に振り回されるのをやめた理由
ここで、この記事の結論めいたことを書きます。
制度を一通り追いかけてみて、私がたどり着いたのは、「いくらまで働くか」から考えるのをやめよう、ということでした。
もちろん、壁の存在を知っておくのは大事です。知らずに超えて「こんなはずじゃなかった」となるのは避けたい。だから最新の情報は、後で挙げる公的な窓口で確認するようにしています(制度は毎年のように変わるので、ネットの古い記事だけを信じるのは、いま特に危ないです)。
でも、それを踏まえた上で。
私は、「損しない年収ラインはいくつか」を突き詰めるより先に、**「自分はどう働きたいか」**を考えることにしました。
もっと働きたいのか。今のペースが心地いいのか。子どもとの時間を優先したいのか。数年後を見据えて、少しずつ仕事の幅を広げたいのか。——そこがぶれていると、いくら壁の数字に詳しくなっても、結局また迷子になる。私はそうでした。数字を調べれば調べるほど、「で、私はどうしたいんだっけ」がわからなくなっていったんです。
壁は、あくまで判断材料のひとつ。人生の設計図そのものではない。
そう思えたとき、私がまずやったのは、壁の数字とにらめっこすることではなく、自分のライフプランを立ててみることでした。これから先、家族とどんなふうに暮らしていきたいか。お金は、いつ、何のために必要になりそうか。ざっくりとでも将来を書き出してみると、不思議と「じゃあ今の私はどうあるべきか」の軸が見えてきました。
私が出した答えは、今は、子ども優先。
うちの子には感覚過敏なところがあって、緊張するとお腹が痛くなったりします。その小さなサインに、できるだけそばにいて寄り添いたい。——それが、今の私がいちばん大事にしたいことでした。
だから私は、「あと数万円多く稼げるかどうか」より、「その働き方で、子どものそばにいられるか」を先に置くことにしたんです。もっと働きたくなる時期が来たら、そのときまた考えればいい。軸が決まると、壁の数字は“怖いもの”から“ただの目安”に変わりました。
ちなみに、ライフプランを立てるとき、私はたまたま参加していた会員制コミュニティ内のシミュレーションツールを使いましたが、探すと公的機関などが無料で公開しているツールもあります。難しい知識がなくても、将来のお金の流れがざっくり見えるので、「まず自分の軸を決めたい」という段階の人には、こういうツールから始めるのがおすすめです。
そうやって軸が決まると、少しだけ、肩の力が抜けました。
それでも数字を確認したくなったら
とはいえ、「考え方はわかったけど、やっぱり自分の場合の正確なラインが知りたい」と思うのが人情です。私もそうです。
その場合は、ネットのまとめ記事(この記事も含めて)を鵜呑みにせず、必ず一次情報にあたるのがいちばんです。とくに今は制度の移行期なので、情報の鮮度が命です。
- 税金のこと(所得税・配偶者控除など)→ 国税庁のサイト、またはお住まいの地域の税務署
- 社会保険のこと(106万・130万の壁など)→ 厚生労働省のサイト、日本年金機構、または配偶者の勤務先が加入している健康保険組合
- 具体的な自分の家計への当てはめ → お住まいの自治体の窓口や、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家
制度は、私が知る範囲でも本当によく変わります。この記事に書いた数字も、あなたが読んでいる時点ではまた変わっているかもしれません。だからこそ、大事な判断のときは、その時点の公式な情報を確認してくださいね。
おわりに
「働き損って、本当にあるの?」
この問いに、私はきれいな答えを出せませんでした。
正確に言えば、「ある場面もあるし、制度が変わって、以前ほど単純な話ではなくなってきている」——そのくらいの、もやっとした答えしか持っていません。
でも、扶養の壁の前で電卓を叩きながら、私が思うのは、これは損か得かだけの話じゃないな、ということです。どう働くかは、どう生きたいかと地続きで、そこには正解も不正解もない。
同じ壁の前で迷っているあなたと、「わかる、ややこしいよね」と言い合えたら。この記事は、それで十分です。
この記事は、私個人が制度に触れてきた経験と、執筆時点で確認した情報にもとづく、あくまで一個人の考えです。税金や社会保険の具体的な取り扱いは、お一人おひとりの状況によって異なり、また制度は改正されることがあります。ご自身の働き方を判断される際は、必ず最新の公式情報や専門家にご確認ください。